グランプリ
舟を漕ぐ
2025年 油絵 980×980
遠くにゆるやかな山影が見え、その手前では小さな船が静かに漂っている。まるで誰もいない場所のように、時間はほとんど動かない。絵具を塗っては拭き取り、何度も重ねることで、風景は少しずつ曖昧さを帯び、「在る」と「不在」のあわいに浮かぶ記憶のような景色となる。静けさの中にわずかな気配だけを残し、手作で約5cmの厚みをもつ作品の物質感が、風景に確かな重みを添えている。誰もがどこかで見たことのあるような共通の記憶を目指し、見る人それぞれの“家”や静けさの感覚を呼び起こしたい。



Comment
2020年に起こった新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけに、グローバル一辺倒ではなく、自分の住んでいる地元(ローカル)をもっと大切にしていこうという機運が世界的に生まれています。才能豊かで国際的にも多彩な経験をなさっている若手アーティストの皆さんは、敏感にそうした機運を感じていると思いますが、あえて強調するとしたら、今、もう一度「グローカル」(グローバル[地球規模]とローカル[地域的な]を組み合わせた造語)な観点で自分の居場所を見直すときだと思っています。
自分らしさを発揮できる居場所をいかに見つけるかが、自己を肯定することに最も近づくことだと思うので、その意味でも、今、自分が暮らしている足元をよく知ることが非常に重要です。そうした「居場所の意味」を、若手アーティストたちが気づかせてくれる機会になるとうれしいですね。
受賞したアート作品は、展 覧会のほか、グランクレールの住宅内でも飾られる予定ですが、今回の「ライフデザインアート」プロジェクトでは、若手アーティストの提案を吸い上げる形で様々な活動が予定されていますから、できることなら美術だけではなく、食、香りなど多彩な分野を取り込みながら、トータルで居心地の良い空間へと広がっていくことを期待しています。
これまでの社会では、「幸せ」とされる絶対的な価値観にどう辿り着くかが課題とされてきましたが、今では「ウェルビーイング」が 現代的な幸せなのだと捉えられるようになっています。ウェルビーイングとは、心 身ともに満たされた良い状態のことを指しますから、絶対的な価値ではなく、良い関係をどううまくつなぐかという相対的な価値なのです。だからこそ、アーティストやデザイナーにはウェルビーイングを実現するようなアートを創り出していただきたいですね。